2018年6月15日金曜日

2018年度 第1回交流セミナ−報告

 201869日(土)本会主催の会員交流セミナー「ボーヴォワール・ルネッサンスが起きている!ー今を生きる私たちへのメッセージを読み解くー」が東京ウイメンズプラザで開催された。

新会員によるボーヴォワール哲学・文学に関する2点の発表がおこなわれた。参加者は発表者を含め18人。大学生、一般の方など会員外の参加もあり質問、意見も多く交わされた有意義な交流セミナーになった。



司会進行:長谷川有紀

1.「メルロ=ポンティとボーヴォワールにおける道徳―文学の問題を手がかりに」
                      佐野泰之(佐野・川崎唯史の共同研究)

.「曖昧なジェンダーを生きること―ボーヴォワールの『第二の性』と両義性」 
                      藤高和輝
 
総評、コメンテーター:木村信子・棚沢直子

 これらの発表は、いずれもambiguité (両義性=あいまいさ)を共通の中心テーマに据え、哲学、文学、ジェンダーの視点から考察したものであった。配付資料は発表内容に沿って整理されており、参加者の理解を助け、有益であった。
 佐野氏はメルロ=ポンティとボーヴォワールにおける両義性=あいまいさ(ambiguité)という概念を通し、両者の哲学思想の近似性を考察。とくに『知覚の現象学』を「時間の両義性」および「反省・直感・表現」の観点から綿密に作品分析し、メルロ=ポンティの道徳論には、ボーヴォワールの哲学思想の影響が認められることを論証した。代読による川崎氏の発表は、ボーヴォワール文学のメルロ=ポンティによる読解分析を通じ、とくに「自他関係」の問題およびサルトルの「存在と無」のテーマに通底する「眼差し」の問題を起点とし、『招かれた女』には「両義性の道徳」と呼べるような理論が提示されていると論じた。
 「両義性=あいまいさの視点」から『第二の性』を分析した藤高氏は、「女=本質的に他者」とする「神話」を斥け、「曖昧なジェンダー」を引き受けることこそが「第二の性』が示唆する「倫理的な生の様態」であると結論づけた。
 これらの非常に学術的な発表後の質疑応答タイムでは、参加者全員が発言し、そこからさらに多様なジェンダーの問題点が浮き彫りとなった。言葉と翻訳の問題(la féminité, le féminin, le fait féminin, autre, autruiの訳し分け)、イリガライ、クリステヴァ、バトラー、ハイデガー、サルトル、ブランショ、デルフィなどの思想、実存主義、Choisirフェミニズム団体、米国の現代フェミニズム思想(「妊娠の現象学」など)、米仏フェミニズム思想の違い、哲学理論とジェンダー論が活発に展開され、非常に有意義な会員交流セミナーとなった。

 研究会の後は表参道の見事に季節の花々が店先を飾るイタリアレストランにて懇親会が開かれ、参加者一同、和気藹々とした雰囲気の中、美味しいイタリア料理を囲み、研究会で尽くしきれなかった議論も続けられ、楽しく充実したひとときを過ごした。